昔でいう”仲人おばさん”。結婚が難しくなった現代に、ひとりでも多くの男女を幸せでつなぎたい

五十嵐まこさん

仲人士。『Marriage 湘南』代表

東京都出身。外資系IT企業ほか、多種のビジネス経験をする。結婚後、一時期は家庭に入ったが、2012年に仲人士として起業。日本仲人協会に加盟し、湘南・鎌倉に個人事務所を設ける。『湘南・鎌倉の仲人☆まこ姉さんのおせっかい婚活ブログ』が面白く、結婚相談所・仲人ジャンルでランキング1位。ブログを読んで訪れる相談者も多い。
http://Ameblo.jp/shonan2012/

相談を受けた以上は、誠心誠意尽くす主義

はつらつとした笑顔と気どりのない喋りが、心地いい。頼りがいのある“姉”といったイメージの人だ。広告をほとんど出していないのにも関わらず、生涯のパートナーを求める人たちが、紹介やクチコミ、彼女のブログを見て、続々と相談に訪れる理由の一端がみえる気がする。

 

「飾りようのない性格で、いつもこんな感じです()

 

五十嵐さんが「仲人士」という資格を取得、日本仲人協会に所属して個人事務所『Marriage湘南』を立ち上げたのは、2012年のこと。以降、おもに20代から40代の女性会員たちを主に、次々とご縁をつないで、たくさんの相談者を成婚へと導いてきた。見合いをしてから交際、成婚まで平均8か月ほど。早い時は3から4か月で成立することもあるという。

 

「まったくひとりで起業して、株式にはしませんでした。理由は仲人というものを商売にしたくなかったからなんです。もちろん仕事ではありますが、ビジネスという意識だけだったら、今の成果、結果はたぶん出せていなかったと思う。ですから成功報酬という形なんです。とにもかくにもまずは何とかして結婚したい! という人を、何とかして結婚させなくちゃならない! というのが大前提で、言ってみればおせっかいビジネスなんです。昔、ご近所にいましたでしょう、おせっかいなおばさま()。私が今していることって、それなんですよ」

 

それにしても、5年連続成婚数1位という数字を獲得するというのは、尋常なことではない気がするが、それについて五十嵐さんは「(相談を受け)人をあずかるということは、その人の人生とガッツリ関わることなんです」と、歯切れよく答える。そのために、時に会員から真夜中にかかってくる電話を受け、励ますこともある。

 

「恋愛ごとって、今、なんですよ。ちょっと時間がズレただけで違うものになってしまう。何かあって、今、話したいからかけてくるわけで、応えてあげなければならないという思い。人の寿命の平均が80年余りとしたら、たかが一時期、でもご本人にはとてつもなく重要な時期であるはずで、その一コマに関わった以上、誠心誠意、尽くすのが私の主義です」

 

そもそもは専業主婦だった。39歳で結婚。「暇な時間も多くて」、葉山にある好きなカフェによく出かけていた。ある時、70代の店主夫妻から「アルバイトの子が辞めるので、週3回ほど手伝ってくれないか」と頼まれた。心が動いた。

 

 

「実はその頃から、今の仕事のようなものができないかなと思い始めていました。当時、テレビでお見合い企画の番組が流行っていて、漠然とですが私もこういうことができたらいいなと。もともと人と人とをつなぐ仕事をしていましたから、気持ちがむくむく湧き上がりました。ただ、事務所を立ち上げるにしても、夫の収入や家の貯金を使うわけにはいかない、まずはこのアルバイトで貯めると決意しました」

養育環境が大きく結婚観に関わっている

本人いわく「仕事体質」。学校を卒業後、結婚までの間、猛烈に働いてきた。時はバブル期。

         

「いろいろな仕事をしました。旅行会社での窓口対応や、レコード会社、外資系大手IT企業でのカスタマー対応、ある企業のコールセンターの立ち上げや、人材育成に関わったり。忙しくて帰りはいつも終電、泊まり仕事もあったりと体力的、精神的にキツイ毎日を過ごしていました。ストレスが溜まって苦しいこともありましたけど、そんな中でも外資系の航空会社や銀行マン、医者……と、たくさんの方々と知り合ったことで、楽しく、刺激をもらい多くを学びました。今の私の人脈のひとつとなっています。最後は父のやっていたアパレル会社が、新しいブランドをオープンするということで手伝うことになり、店頭でお客様の対応をしていました」

 

この社交性が、現在の仕事へとつながったのだろう。カフェのバイトで貯めたお金に、自分の貯金をプラスして100万円。これを元手にしてあれよあれよという間に起業した。

 

「考え抜いて何かをやるという人間ではないですから。何事もね、思い立ったが吉日ですよ!

 

振り返ると「つくづく人が好きなんだなと思う」と弾けるように笑った。「それが私のエネルギーの基ですね」

 

入会者はさまざまな環境に生き、思いを抱いて相談にやってくる。ものすごく結婚したいが、なかなかうまくいきませんと額を曇らせる。仕事を始めたころ五十嵐さんは、アドバイスを重ねても実行に移さない、あるいは移せない人たちが一定数いることに気づいた。そしてその大きな要因が彼女たちの育った環境にあると、感じた。

 

「この人は、どうしてこういう考え方をするのだろう、すぐ否定してしまうのだろう……。お相手の家族構成、仕事、年収、学歴、趣味……プロファイルがすべてわかっていて、この人とならうまくいくと提示しているのに、理由をつけて踏み出せずぐるぐるしている。あるいは踏み出しても、同じようなところで立ち止まってしまう……。それは小さなころからの養育環境にあるのではと」

 

その気づきは同時に、五十嵐さん自身の育った環境を、心の中をのぞき込むことでもあった。

 

「私も結婚するまで、うまくいったわけではありませんでした。自分の性格を深堀りしていくと、父母との関係性が大きいのではと。父は戦後の高度成長期に貧しい中から会社を興した、いわば叩き上げの人。常に忙しく、厳しく怖い人という印象でした。反対に母はお嬢さん育ちで、互いに育った環境が全然違うので大きなズレがありました。けんかが絶えない時期もありましたし、母が家を出ていくためのセットがひとまとめにしてあって、押し入れに入っていたりした。私はそんなふたりに反発しながらも、どうなってしまうんだろうと、不安でどきどきする子供時代を過ごしました……」

 

多くの女性たちが少なからず抱えている、“母と娘”との難しい関係も経験した。

 

「母は家事全般に対しては完璧な人で、尊敬していました。大切な礼儀作法も厳しく教えられ、これは結婚生活をしていく上で必要なひとつとして、今、若い会員さんたちに伝えることができます。皆、その部分はなかなかできていないもので()。ただ、母はひとりの女性としてはどうだったろうか、と私なりに感じるところがありますし、母のようにはなりたくないと思っていました。まあ私も相当、気かん坊な性格だったこともありますし()。両親は年老いてから仲良くなりましたが」

結婚とは最強のチーム。相手の絶対的な味方であること

それからは、悩みの多い女性とはまず、3時間近くカウンセリングをするようになった。家族の話などを聞いて「心を開いてくれる」ことで、交際がスムースにいかない理由を見つけ出し、どんな男性がよいのかよりつかみやすくなった。状況によっては「そうじゃないんだよ」と、耳に痛いこともハッキリと伝える。「この人は、こうしたら絶対に幸せをつかめるのに」と、自分事として深い情を持つがゆえだ。

 

「私のこういうやり方、ハッキリした物言いがイヤだと感じる方もいると思います。それはいたしかたないこと。でも私は自分のやり方を変えるつもりはないです」と清々しく言う。

 

「ご自身が求めていることと、お相手が望んでいることとは、違うことがほとんどです。特に難しいのは男女共にアラフォーの人たちですね。人は年齢を重ねると、いろんな場面で自負(プライド)が強くなっている。でも我を張っていたらうまくいかない。人様が求めるものと自分とのすり合わせをしなければならない、自分が何をしてあげられるのか、なんです。そうやって我の強さがとれた時、するするっとうまくいく。ただ誤解されたくないのは、お相手に合わせて何でも我慢するということではありませんよ。それでは先がもたないし、決してハッピーな人生にはならない。しなくていい我慢はしなくていいんです」

 

結婚とは、“最強のチーム”だという。

 

「お互いがお互いの絶対的な味方であること。絶対の理解者であること」。

 

起業から8年。恋愛も結婚も、常に世相、経済と連動していることをひしひしと感じている。男女雇用機会均等法の施行、リーマンショック後の世界的余波、増加する非正規社員や派遣……。女性たちの立ち位置が変わっていく不安。今年はそこに未曾有のコロナ禍が重なった。

 

「東日本大震災のときと同じで、ひとりでいることの不安が大きくなっていると思います。もちろん女性の生き方が多様化した現代、必ずしも結婚しなくてもいい。それぞれの選択ですから。でも私は、誰かと共に生きるというのは、よいことだなと思うんです」

 

人と密に会えなくなった今年、すばやくオンライン見合いもスタートさせた。すでに成果が出始めているという。

 

「この仕事を通じて、私自身も成長してこられたと思っています。結婚のきっかけを作るのは私だけれど、逆に学ばせていただいている。とても感謝しています。これから先も、生涯、おせっかいおばさんをやっていきますよ。ひとりでも多くの人を幸せにしたいんです」


ライター情報

水田静子

『人、語りて』編集長 
静岡県生まれ。出版社・雑誌編集を経てフリーランスとなる。女性誌にて人物インタビューを執筆。女優、俳優、作家、音楽家、画家、映画監督、文化人等、表現世界に生きる人が多い。その他、アスリート、起業家、各分野の職人など、取材数はのべ3000人を越える。ていねいな取材と文章で、その人の本質に光を当て、伝えることを至上の喜びとする。単行本の構成、執筆、出版プロデュースも行う。
Works/『Precious』『Domani』(小学館)、『エクラ』(集英社)、『With』(講談社)、『家庭画報』(世界文化社)、『婦人公論』(中央公論新社)、『JUNON』(主婦と生活社)、『ゆうゆう』(主婦の友社)、『VOGUE』『GQ』(コンデナスト・ジャパン)、『SKYWORD』(JALブランドコミュニケーション)、『ボン・マルシェ』(朝日新聞)、『Yahoo!インタビュー』ほか。近著にインタビュー集『硬派の肖像』(小学館)など。第1回ポプラ社小説新人賞特別賞を『喪失』にて受賞